something

何か面白いことないかな

ゆるやか本草学(有毒植物)⑧ カエンタケ(有毒部位:全部位)

久しぶりに有毒植物シリーズです。
「有毒植物」だと表現が過激に感じましたので、タイトルを「ゆるやか本草学(有毒植物)」に変えます。


先週、10月15日はキノコの日だそうです。
ふと庭に目をやると、赤いキノコが生えていました。調べたところ無毒な「ベニナギナタタケ」でした。現代アートのような外見です。
f:id:Perie:20181004113330j:plain


一瞬、猛毒キノコの「カエンタケ」かと一瞬思いましたが、特徴が全然異なるので安心いたしました。


そのような経緯で、今回はカエンタケについて紹介します。


目次

本草学とは?

江戸時代に栄えたの医薬・薬学です。
本草学とは近代以前の薬物学や博物学のことを指し、動物・植物・鉱物などの自然物を調査・研究する学問です。
江戸時代の医療は、手術ではなく薬による治療が中心でした。薬の成分の多くは植物なので「薬の本(もと)となる草」ということから「本草」と呼ばれたそうです。

このblogでは気になった植物の効能や毒を、ゆる〜く紹介していこうと思います。

カエンタケとは?

カエンタケ(火炎茸・火焔茸、Trichoderma cornu-damae)は猛毒キノコです。

ボタンタケ目ボタンタケ科トリコデルマ属に属する子嚢菌の1種です。食べると死亡率が非常に高く、汁が手に付くだけでも皮膚に炎症を起こす可能性があります。
f:id:Perie:20181004115528p:plain
(画像引用元:梅園菌譜 - 国立国会図書館デジタルコレクション p51)

 坂本氏菌譜に出す
 火焔蕈と微(すこし)異(ことな)り
 然(しかれ)とも菫(わずか)に股をなす
 恰(あたか)も珊瑚の細條に似たり
 其大きさ図の如し
 一尺に至ると云うもの諸州の風土に違い有るべし
 大毒あり


引用元:カエンタケの事 | まねき屋のキノコblog

上記のカエンタケの文書に「大毒ありと言へり(=なんか猛毒らしいぞ)」と書かれています。




毒について

毒部位: 全部位
毒成分: トリコテセン類、エステル類の計6種類*1
毒症状:発熱,悪寒,嘔吐,下痢,腹痛,手足のしびれ、消化器不全、小脳萎縮、脳神経障害

カエンタケの中から出てきた赤い汁に触れると皮膚がただれ、手にかかった場合は手袋手にかかった場合は手袋を脱ぐように皮膚が剥けてしまうと言う情報があります。

皮膚の弱さや、カエンタケ個体差による毒性の強さも関係してきそうですが...触らないことに越したことは無さそうです。


トリコテセン類タンパク質合成など体内の働きを阻害し、わずか2cm(3~10g)を摂食しただけで死亡に至ります。トリコテセン類は脂溶性化合物で、皮膚に付着するとゆっくりしみ込み、汁がついたら水などで早期に洗い流すか、一刻も早く界面活性剤などで洗う応急処置が必要です。

毒性は強く,死亡例あります。
カエンタケは毒性が強く、有毒成分3グラム程度で人を殺すそうです。


毒性:トリコテセン類、エステル類の計6種類(全部位)

計6種類の毒が検出され、特に注意が必要です

・トリコテセン類:ロリジンE、ベルカリンJ(ムコノマイシンB)、サトラトキシンH
エステル類


カエンタケからはサトラトキシンHのみが得られるらしいですが、菌を培養するとロリジンEやベルカリンなども生成するようになるそうです。



このトリコテセン類はかつてベトナム戦争に使用された科学兵器*2に酷似しており、同様の毒成分を含むキノコは他に確認されていないそうです。

どの兵器に使われたか探したのですが、調べたところ「黄色い雨」と呼ばれる攻撃のようです。

ソ連は、ベトナムに供給したトリコテセン系マイコトキシン(カビ毒の一種)を使った武器が一九七八年にカンボジアクメール・ルージュカンボジア共産党ポル・ポト派)に対して使った(「黄色い雨」と呼ばれる攻撃)として、非難されていたのだ。しかし、いずれの説も今日まで立証されていない。

引用元:著者: クリス・アボット、 清川幸美「世界を動かした21の演説 ― あなたにとって「正しいこと」とは何か」第七章 冷戦とは何だったのか


トリコテセン系マイコトキシンによって汚染された穀物を摂取すると、食中毒性無白血球症 (ATA) と言われる中毒症状(悪心、嘔吐、腹痛、下痢、造血機能障害、免疫不全など)を起こすそうです。*3


補足:
マイコトキシン....カビが産生する二次代謝産物の中で、人または家畜の健康を損なう有毒物質であるカビ毒をマイコトキシンと呼ぶそうです。

マイコトキシンは「菌の」という意味の接頭語である myco- と、「毒」の意味である toxin からなる造語でらしいです。




毒症状:発熱,悪寒,嘔吐,下痢,腹痛,手足のしびれ、消化器不全、脳神経障害


食後30分から,発熱,悪寒,嘔吐,下痢,腹痛,手足のしびれなどの症状を起こす。2日後に,消化器不全,小脳萎縮による運動障害など脳神経障害により死に至ることもあるそうです。



発生事例:薬用と勘違いして酒に浸して飲んだ

数件の発生事例がありますので、幾つか事例を載せます。

  • 1991年、山梨県カエンタケ僅か数センチを天ぷらにして食べたところ、数日後に40度以上の熱が出て、その後、髪の毛が抜け、運動機能、言語機能に障害が出たという。医師の診断によると、小脳が萎縮していたそうだ。その後、髪の毛は伸びたが、歩行、言語に障害が残る
  • 1999年10月3日夜、新潟県見附市の旅館で宿泊客5人がロビーに飾ってあったカエンタケを2.5cm~3cm程度にちぎり、ぐい呑みに入れてキノコ酒として飲み、飲んだ5人が30分経過した頃から腹痛、下痢、悪寒、手足のしびれ等の症状を呈し4人が医師の手当を受ける。3人が入院したが、うち1人が2日後に循環器不全で死亡*4
  • 2000年、群馬県カエンタケを「ベニナギナタタケ」と勘違いし、ナスと一緒に食べ、15分後、吐き気などの症状を訴え入院、4日後に死亡

薬効:なし

猛毒で、今のところ薬効は無さそうです。

毒だからと言って、むやみに蹴飛ばしたりしないようにしましょう。
植物・樹木とキノコなどの菌類は、助け合って森を支えているそうなので一概に悪者とは言えなさそうです。*5





見た目

外見

こちらはカエンダケの写真です
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/0e/Podostroma_cornu-damae.jpg/375px-Podostroma_cornu-damae.jpg
(画像引用元:カエンタケ - Wikipedia

断面

カエンタケは乾燥に弱いそうです。
鮮度が良い個体は中が真っ白(毒性も強い)で、乾燥すると毒性が薄まり中の肉が黄色になるそうです。
f:id:Perie:20140813170131j:plain

生える場所

ナラ枯れ(紅葉でもないのに急に葉が萎れ、茶色や赤茶色に枯れる)が発生した森林で、被害発生時または数年後に、毒性の強いカエンタケが多く発生するそうです。*6
https://www.city.minoh.lg.jp/animal/sizennryokuti/images/narakare02.jpg


ナラ枯れとは.....ナラ類、シイ・カシ類の樹木を枯らす森林被害で、病原菌となる糸状菌(通称「ナラ菌」)と、その病原菌を媒介するカシノナガキクイムシによる樹木の伝染病のこと

類似キノコ

類似するキノコを2つほど紹介いたします。

昆虫に寄生するキノコです。
中医学・漢方の生薬や、薬膳料理・中華料理などの素材として用いられるようです。
f:id:Perie:20181017213616j:plain
(引用元:インターネット検索画像)

ベニナギナタタケは、細長く柔らかいそうです。

可食とされますが美味ではないとする文献が多いそうです。無味であるため主にサラダ、マリネ等の彩りを豊かにする食材として使用されるそうです。*7



https://www.mhlw.go.jp/image/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000143426.png





ベニナギナタタケとカエンタケの違いの図です。
https://keeenet.com/wp-content/uploads/2014/09/take_03-300x121.png

個人的な印象ですが、カエンタケはどこかソーセージっぽい形に見えます。
https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/31zxauRrbHL.jpg


先が尖り気味かで判別すると良いかもしれません。
http://livedoor.blogimg.jp/chaaaahan/imgs/7/0/70424a4f.jpg


南方熊楠(みなかた くまぐす)とキノコ

今年の大阪市自然史博物館の特別展「きのこ!キノコ!木の子!〜きのこから眺める自然と暮らし」の展示物に南方熊楠の描いたカエンタケのスケッチがあったようです。
f:id:Perie:20181017155721j:plain
(画像引用元:【カテゴリ-大阪市立自然史博物館特別展】 : いきもの は おもしろい!

南方 熊楠(1867- 1941)は、明治-昭和時代前期の博物学者、生物学者民俗学者です。
生物学者としては粘菌の研究で知られていますが、キノコ、藻類、コケ、シダなどの研究もしており、さらに高等植物や昆虫、小動物の採集もしていました。*8


南方熊楠を知らない方も多いと思いますので、紹介漫画を貼らせていただきます。

f:id:Perie:20181017155729p:plain
f:id:Perie:20181017155750p:plain
f:id:Perie:20181017155758p:plain
f:id:Perie:20181017155805p:plain
(画像引用元:http://www.e-manga.info/?p=653

この大学予備門(現代の東大)の同期は夏目漱石正岡子規秋山真之などだったそうです。




余談ですが...個人的に好きな南方熊楠のエピソードは、キューバ採集旅行中に資金が尽き、ハイチ、ベネズエラ、ジャマイカなどを2か月あまりサーカス団の一員となって生活していたことです*9


まとめ

赤いカエンタケは有毒植物です。カエンタケに含まれる毒のトリコテセン類はベトナム戦争時の兵器「黄色い雨」に使われた化学兵器に似ているそうです。
ベニナギナタタケや冬虫夏草に類似していますので、間違えて食べてしまわないように気をつけましょう。

関連

世界を動かした21の演説――あなたにとって「正しいこと」とは何か

世界を動かした21の演説――あなたにとって「正しいこと」とは何か

一部にトリコテセンの生物兵器について書かれた箇所がある

猫楠―南方熊楠の生涯 (角川文庫ソフィア)

猫楠―南方熊楠の生涯 (角川文庫ソフィア)

南方熊楠 菌類図譜

南方熊楠 菌類図譜






余談ですが...
様々な毒キノコが存在するので、キノコ狩りの際は間違えて食べないように気をつけましょう。
f:id:Perie:20181009142858j:plain
(画像引用元:https://twitter.com/i/web/status/919151124422131712



http://www.naro.affrc.go.jp/org/nfri/publications/pdf/sousetsu/kanko_sou44/p023.pdf


世界を動かした21の演説 ― あなたにとって「正しいこと」とは何か - クリス・アボット, 清川幸美 - Google ブックス