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何か面白いことないかな

大分県中津市で見つけた歴史資料11『英氏経済論』(1871,1873)

大分県中津市に仮住まいしていました。蘭学関係の古文書が数多く置かれているので「中身はどのようなものか」と気になり、興味本位で調べています。


小幡記念図書館に展示されている古書のキャプションがシンプルなので、自分で調べることにいたしました。
今回ご紹介するのはウェーランド著『英氏経済論』です。


目次

大分県中津市ってどこ?

福岡県と大分県の県境です。歴史の教科書に掲載される『解体新書』をみることができる町です。

この街では、比較的安価に鱧が年中食べることができ、スーパー等で鍋用に包丁を入れた鱧が売られています。
我が家もよくハモ鍋を食べていました。

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『英氏経済論』とは?

ウェーランド著『政治経済要理(F.Wayland,The Elements of Political Economy,1837)を、小幡篤次郎が全訳したものが『英氏経済論』です。内容は経済について書かれたものですが、翻訳を終えるのに7年もの歳月を費やしたそうです。

『英紙経済論』の何が凄いの?

慶應義塾大学が誇りとする、上野戦争中の出来事に関連する書物の和訳本です。

1868年(慶應4年5月15日)に東京上野で、上野彰義隊の戦争が起きました。上野戦争とは戊辰戦争の戦闘の1つです。


出典:

上野戦争は1日で終結してしまったので、世間的には知名度は低いようです。


上野戦争の緊張の最中、慶應義塾大学で講義が執り行われ、その際にウェーランドが論じられていました。その時のことを「慶應義塾は1日も休業したことはない」と述べ、学問研究の一日もゆるがせにできないことを塾生に示したようです。

現在では、慶應義塾ではこの5月15日を「福澤先生ウェーランド経済書講述記念日」として毎年記念講演会を開催しています。普段は閉じられている慶應義塾大学三田キャンパスの三田演説会館が珍しく開かれるほど、特別な日のようです。

福澤諭吉ウェーランド講述の図(安田靫彦 両掛軸)

(出典:慶應義塾豆百科:[慶應義塾]

慶應義塾大学の創設者紹介動画に、ウェーランドの書物が紹介されています。
3:33〜4:05あたりが今回、関連する部分です。

youtu.be
(出典:創立者 福澤諭吉:[慶應義塾] )


一応、福澤諭吉の自伝『福翁自伝』の、そのときのことが記載されたページを紹介いたします。
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明治元年の五月、上野で大きな戦争が始まり、芝居も寄席も見世物も料理茶屋もみな休んでしまって八百八町は真の闇で、何がなんやら分からないほどの混乱でありましたが、私はその日も授業をやめませんでした。上野ではドンドン鉄砲を打っています。けれども上野と新銭座は2里も離れており、鉄砲が飛んでくる気遣いはないというので、丁度あの時、私は英書で経済学の講義をしていました。だいぶ騒々しい様子でありましたが、煙でもみえるかと言うので生徒たちは面白がってハシゴに登って屋根の上から見物する。なんでも昼から暮れすぎまでの戦争でしたが、こちらに関係がなければ怖い事もありません。

….中略

日本中いやしくも書を読んでいるところは慶應義塾だけという有様で、その時私が塾の者に語ったことがあります。

オランダはかつてナポレオンとの戦争に敗れてフランスに併合され、また東インドの植民地もイギリスに占領され、オランダの国旗を挙げる場所がなくなりました。しかし世界中わずかに一箇所だけ場所を残しました。それは日本の長崎の出島です。
出島は年来オランダ人の居留地で欧州の兵乱の影響は及ばず、出島の国旗は常に竿にあってオランダ王国は滅亡した事なしと、今でもオランダ人が誇っています。

...してみるとこの慶應義塾は日本の洋学のためにはオランダにとっての出島と同様に、いかなる騒動や変動があっても、いまだかつて学問の命脈を絶やした事がないぞ、慶應義塾は一日も休業したことがない、この塾がある限り日本は世界の文明国であるから、世間なんか気にするな!
...と大勢の少年を励ました事があります。

※私自身古典が弱いので、間違った現代訳している可能性があります。

『英紙経済論』の入手の経緯

福澤諭吉が人生3回目の渡航の際に大量の資金を持参し、ニューヨークの書店と相談しながら購入したようです。

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(出典:宮城県「仙台藩の図書購入」|慶應義塾ゆかりの地|慶應義塾大学 通信教育課程


『英紙経済論』の中身ってどんな感じ?

19世紀に合衆国で一番よく使われた経済学教科書と言われ、1837年の初版刊行以後1875年に至るまで、およそ40年間にわたって多くの版を重ね、売り上げは30年間に5万部と称されているそうです。
内容の特徴として、後発の資本主義国として生産力育成の視点から生産編の比重が高く、1830年代の恐慌がアメリカ金融界に壊滅的な影響を与えたことから銀行紙幣の問題にも多くのページ数が割かれているようです。*1

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(出典:Bibliographical Database of Keio Economists - 全文画像見出

以下は目次です。

第一編
 生財論
  財本論 以上巻之一
第二編
 勤労論
  人類勤労ノ眼目各様ナルヲ論ス
  勤労ノ異ナルヨリ産物ノ殊ナルヲ論ス
  天然力ノ使用ヲ論ス
  分業論
  一人一国ノ分業限界アルヲ論ス
  勤労ノ所産増益スルヨリ功験アルヲ論ス 以上巻之二
第三編
 勤労ヲ財本ヘ加フル所以ノ法ヲ論ス
  人間ノ形情ヨリ此法ノ創マルヲ論ス
  各人勤労財本ノ利ヲ受ルニ従ヒ勤労財本ヘ加ハルヲ論ス
  各人遊惰ノ害ヲ蒙ルノ割合ニ従ヒ勤労財本ヘ加ハルヲ論ス
  財本ノ割合勤労ニ?ユル?愈大ナルハ勤労の鼓舞愈大ナルヲ論ス
  国民ノ開智ニ従テ勤労財本ヘ加ハルヲ論ス
  法令ニ籍テ国産ヲ増益スルノ利害ヲ論ス 以上巻ノ三
第四編
 交易論
  交易ノ由テ起ル所以ヲ論ス
  交易の総論 以上巻之四
第五編
  貨幣ヲ籍テ交易スルヲ論ス
  通用貨幣ノ用方ヲ論ス
  通用貨幣ヲ造ルニ欠キ難シキ性質アルヲ論ス
  貨幣ノ働キヲ論ス
  通用貨幣ノ事ニ就キ政府ノ職分ヲ論ス 以上巻之五
第六編
 楮幣ノ通用ヲ論ス
  預?及両替ノ「バンク」ヲ論ス
  貨附ノ「バンク」ヲ論ス
  楮幣發出ノ「バンク」ヲ論ス
  「バンク」ノ功能ヲ論ス
  楮幣通用ノ利害ヲ論ス
  楮幣ノ事ニ就キ政府ノ職分ヲ論ス 以上巻之六
第七編
 分泒論
  工銀ノ総論
  財本ノ力ニ関ハラスシテ工銀高低スルノ事情ヲ論ス
第八編
 利息論
  財本ノ工人ノ利トナルヲ論ス
  放銀ノ安危ヲ論ス
  財本ノ用方ニ由テ利息ノ多寡アルヲ論ス
第九編
 地代論 以上巻之七
第十論
 消靡論
  消靡ノ種類目的ヲ論ス
第十一編
 一人ノ消靡ヲ論ス
  収ムルガ為メニ費スヲ論ス
  情意ヲ喜ハシムルノ消靡ヲ論ス
第十二編
 一國ノ消靡ヲ論ス
  租税論 以上巻之八 大尾



※上記は、漢字等の細かい間違いがある可能性があります。
正確な目次は、公開データベースから直接ご確認ください。


ざっとタイトルだけ見ると、経済に関することが内容なことが良く分かります。



原書『The Elements of Political Economy』の紹介

検索で「The Elements of Political Economy Wayland」とキーワードを入れれば、無料公開の原書をみることができます。

当時の塾生が読んでいた雰囲気を味わうことができます。

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(出典:The elements of political economy : Wayland, Francis, 1796-1865 : Free Download & Streaming : Internet Archive )


上野戦争をテーマにした資料

手塚治虫陽だまりの樹」最終巻に、上野戦争中のシーンが出てきます。


出典:手塚治虫陽だまりの樹

所蔵場所

小幡記念図書館の展示スペースにあります。


まとめ

大分県中津市の小幡記念図書館の展示スペースに置かれている『英氏経済論』は、慶應義塾大学で毎年5月15日に行われるウェーランド講演会にゆかりのある書物です。中津市にお立ち寄りの際は、ぜひご覧ください。

参考文献

陽だまりの樹 コミック 文庫版 全8巻完結セット (小学館文庫)

陽だまりの樹 コミック 文庫版 全8巻完結セット (小学館文庫)